COMMENTARYストーリー解説

本編(=本)に掲載されたストーリーの一部についての解説を掲載しています。
以降、本編に関するネタバレを含みますので、本編未読の方はご注意ください。

はじめに

本作『伝う色、夜に流れて』では、「人の人格は、過去に体験した出来事や出会った人たちとの経験に基づいて形成されるもの」という前提のもと、記憶喪失になったヒロインが「自身を再定義する話」というテーマで制作されました。
また、失われた記憶を復元するためのリハビリをした結果、記憶をもとに戻せる可能性は大いにありながらも、復元できた時には「記憶喪失後の記憶」が「過去に記憶」によって上書きがされる(=記憶喪失後の体験はすべて失われる)可能性もあるという設定で作られています。
それまでの記憶を失い空っぽになってしまったヒロインに対し、記憶喪失前の彼女を求めてしまう周囲の人々という構図により、ヒロインは苦悩することになります。

前日譚について

WEBサイト上で公開している前日譚(Episode.0)では、ヒロイン・ツヅリの視点での物語が綴られています。本編では、ツヅリが事故に遭ってから数日経ち、彼女が目覚めるところからスタートしますが、前日譚は事故に遭う直前までを描いています。

本編も前日譚もツヅリの一人称で語られる物語になりますが、記憶を失う前と後での言葉遣いや感情の動き方の違いなどが感じ取っていただけるようなつくりにしています。

ナツキの行動について

記憶喪失後のツヅリにとっては、もちろんナツキの顔に見覚えはありませんでしたが、本編で言及されている「ナツキとツヅリのバイト先が一緒である」ということは事実でした。しかし本編で「お互い、ほぼはじめましての関係」とされていたことについては、ツヅリの父親とナツキによる【嘘】です。

ツヅリの父親は、周囲の人間に壁を作ってしまった娘=ツヅリを見て、「それまでの自分を知っている人間がお見舞いに来る」ということが彼女にストレスを与えているということに気づきます。
そこで、偶然お見舞いにやってきたナツキに頼み、「ツヅリのことはよく知らないというフリ」をしてもらうことになります。実際は、数ヶ月間同じ現場アルバイトをしていた関係でしたが、事情を聞いたナツキはこれに従い、彼女と接することになります。

ちなみに、ナツキとツヅリのアルバイト先は駅前の大きな書店であるという設定。父と二人暮らしのツヅリは家計の助けになればとアルバイト情報誌を書店に買いに行ったところ、レジの対応をしたのが当時初対面だったナツキ。当時、スタッフの少なさに頭を抱えていたナツキは会計のタイミングで直接ツヅリをスカウトした、という裏話も作っていました。

ツヅリとナツキの関係について

それまでのツヅリとナツキの関係についてはあえて具体的なものを用意していません。本編の後半でユウから手渡されるスマートフォンの履歴を追っていたツヅリは、ナツキとのやり取りが大量に残されていることに気づきますが、何気ない雑談のようなやり取りしか残されていなかったために、自分たちの関係がどうだったのか確信には至らないものとしています。

本編終盤の描写について

本編ではP.42〜45の2シーンを「Outro」として扱っており、いわゆる後日談的な内容にしています。ユウとのシーン、そしてナツキとのシーンの2つがそれにあたります。

ツヅリがユウからスマートフォンを受け取り「過去と向き合うこと」を選択し、ナツキとの関係性についても断片的に知ることになります。その後、ツヅリは前向きに生きる選択をしたことを描きながらも、彼女が失った記憶を取り戻した(=記憶喪失後の記憶を上書きした)のか、記憶を失ったまま普通の日常に戻ってきたのか、はたまた失った記憶と喪失後の記憶を統合することに成功したのか、これについては読者の解釈に委ねるかたちにしています。
この『Outro』にあたる2シーンでは、他ページと比べると少ない文章だけが掲載されています。ここもツヅリ視点の描写にはなりますが、一人称にあたる表記を見るとなにかヒントがあるかもしれません。

ちなみに、ラストシーンでツヅリが持っているスマートフォンについているストラップ(表4に掲載されているスマートフォンについているもの)はカランコエという花。これの花言葉の1つには「たくさんの小さな思い出」という意味があるそうです。